備中和紙
絶えさせない、その一心を本書に
昨年暮れのテレビのローカルニュースで、紙漉きに挑戦した小学生を紹介していました。
和紙づくりに挑戦したのは、和紙の産地で知られる地域の小学生6年生たち。
来年3月の卒業式で手渡される卒業証書を、自分の手で漉いて作ったのです。
自分が漉いた和紙が卒業証書になるとは、なんとすてきなことでしょう。
ニュースは津山市横野地区で「横野和紙」として知られていますが、岡山県内にはもうひとつ有名な和紙があります。
「備中和紙」と呼ばれるもので、もともとは、旧備中町の成羽川の支流清川内(せいごうち)に代々伝わってきた手漉き和紙です。
戦後、丹下家の養子となった丹下哲夫さんが、同家に伝わる和紙づくりを引き継いだのですが、昭和30年代後半の新成羽川ダム建設により移転を余儀なくされ、倉敷に移り和紙づくりを再開します。
倉敷民藝館館長の外村吉之助氏のすすめにより「備中和紙」と命名し、便せん、封筒、障子紙などの製造を始めます。
その品質は高く評価され、備中和紙の伝統と技術の高さは、再び全国に知られることとなりました。
現在は孫の直樹さんに受け継がれています。
丹下哲夫さんが、自身の生い立ちから手漉き和紙との出合い、そして日本を代表する工芸として技術を高めるまでを、材料づくりから技法を細かく残したのが『備中和紙――後に続くを信ず』(2009年10月16日・刊)です。
その副題にあるように、本書をまとめられた時期は後継者が定まっていなかったようです。
「自分の代で廃れさせてはいけない」という思いで、もっているもの全てを本書に注ぎ込む、そんな思いではなかったのかと想像します。
本書の表紙カバーとして巻かれているのも、丹下さん自身が漉いた備中和紙。
巻末にも、8種類の和紙が見本として付いています。
(2020.1.17 山川隆之)
岡山県指定重要無形文化財保持者である著者が和紙づくりの技と心を綴った貴重本。
「備中和紙」の原料や道具、紙漉きなどの製法の細部を豊富な写真と詳細な文章で記録!
末尾に備中和紙8種の作品も収めた。