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INTERVIEW8

『三蟠鉄道記録集』内田武宏さんインタビュー
内田武宏さん(三蟠鉄道研究会会長)
インタビュアー:金澤健吾(吉備人出版編集担当)

地域に“絆”のあったことを、本書を通じて後世に伝えていきたい

金澤

三蟠鉄道のことを知ったのは、いつごろでしたか?

内田

私が三蟠鉄道のことを知ったのは、幼いころ祖父母や両親に連れられて「けえべん」と呼ばれていた田んぼへ連れて行ってもらったときのことでした。
そこで、お祖父さんから「ここは三蟠鉄道という蒸気機関車が走っていた」と、教えてもらいました。
以来、大人になってからもずっと記憶に残っていました。

金澤

三蟠鉄道のことを記録に残そうと思ったのは?

内田

現役で仕事をしていたころには、趣味として三蟠鉄道に関する資料を集めていたぐらいでしたが、本格的に取り組んだのは退職してからで、「古里の歴史を後世に伝えることをしよう」と思ってからのことです。
退職後すぐに近くの公民館で、この鉄道についての勉強会を始めました。
そこに集まった人達から、「もっと知りたい、もっと調べたい……」という声があって続けているうちに、三蟠鉄道に関する資料が集まってくるようになりました。
特に三蟠鉄道の支配人だった方のご子孫から連絡があり、その人の家の蔵から株券や土地を買収した権利証など膨大な資料が出てきて、これは資料を提供してくれた人のためにも書籍にして残そうと思い始めました。

『三蟠鉄道記録集』内田武宏さんインタビュー 写真1

後世に残すには、「語り継ぐ」より書籍にすること

金澤

開通100周年記念として多彩なイベントをされていますね。

内田

100周年記念の大会は、平成27年に山陽学園大学で開催しました。
準備の段階からいろんな特技を持った方が集まり、様々なアイデアが出て2日間にもわたるイベントを繰り広げ、約3,000人に来場していただきました。
記念切手やTシャツをつくり、子どもたちがリレーして神輿を担いで三蟠から国清寺までの約10㎞を練り歩く「子ども神輿」も実施しました。
これらは地域の皆さんからも大きな反響がありました。

金澤

書籍には、そうしたイベントのことや収集した資料などを収録していますね。

内田

本のタイトルにある「記録集」には、集まった資料の記録、100周年事業の記録、三蟠鉄道自体の記録の意味があり、3つの章の構成になっています。
三蟠鉄道ができた背景や設立の過程を追っていく中で気づいたのは、「当時、鉄道を開通させた地域の先人達は偉い」ということです。
三蟠鉄道を敷設しようとして、線路の用地買収などは地域のみなさんが進んで協力しています。
それは、上道郡内の郡長が集う場所があり、平素から地域間の交流があったからできていたようです。
こうした地域の人々の絆があったことも、本書を通じて後世に伝えていきたいことの一つです。

私は、こうしたことを本にして残せたことが嬉しいんです。
本にしておけば50年先、100年先の人にも読んでもらえますからね。
口から口へ「語り継ぐ」よりも、書籍にしておく方が確実に残していけますから。

金澤

研究会の活動や書籍の制作の途中にも、新しい交流や発見がありましたね。

内田

そうですね。福島県の「沼尻鉱山と軽便鉄道を語り継ぐ会」との交流もありました。
沼尻鉄道は三蟠鉄道が廃線になったとき、機関車を引き取ってもらった先です。
三蟠鉄道研究会の有志と一緒に福島県まで出かけていき、情報交換などをしてきました。
この交流のことも、この書籍の中に収録しています。
制作中に新しい発見があったのは、株式名簿に江川三郎八という建築家が見つかったことです。
彼は三蟠駅の駅舎を設計したのではないかといわれており、彼が三蟠鉄道に深くかかわっていたことが判明しました。

金澤

出来上がった本を手にして、どんなお気持ちでしたか?

内田

まず、表紙を見たとき、私がイメージした通りだったんです。
こんな本ができたらいいなと思っていた通りでした。
出来上がった本を、制作にかかわってくださった方々に贈呈のために渡すと、みなさんに好評でした。
「素晴らしい本ができましたね」といって喜んでもらい、「ご苦労もあったんでしょうね」と言ってもらえました。
その言葉に、私の苦労が報われました。

『三蟠鉄道記録集』内田武宏さんインタビュー 写真2

記録集を残せたので、「幻の鉄道」とは言わせない

金澤

書籍の制作過程でたいへんだったことがありますか?

内田

とにかく校正の時間が長引いたことです。
校正の段階で、書いていることの確認をしていくと新しい発見があり、もっと調べないといけないことができたり、違う画像を差し替えないといけなくなったりして、時間が足りなくなっていきました。
マラソンで言えば、走りながら考えていったという感じですね。
でも、その苦労した分は、良い内容になったと思います。

若い人は、三蟠鉄道がどこを走っていたか、その存在も全く知りません。
三蟠鉄道は「幻の鉄道」と言われていました。
「本当にそんな鉄道があったのか」という人もおられます。
これだけたくさんの資料が出てきて、書籍にして残せたのですから、もう「幻の鉄道」とは言わせませんよ。

『三蟠鉄道記録集』内田武宏さんインタビュー 写真3

三蟠鉄道記録集

著者
三蟠鉄道研究会(編)、小西 伸彦(著)、内田 武宏(著)
仕様
B5判、並製本
ページ数
365ページ
定価
本体3,000円+税
ISBN
978-4-86069-685-6 C0065
三蟠鉄道記録集

著者略歴

内田武宏(うちだ・たけひろ)

1942年岡山市生まれ。1960年岡山県立岡山東商業高等学校卒業。
中国銀行に勤務し、1997年に定年退職後、岡山商科大学に事務職として勤務し、2007年に退職。
2008年から更生保護法人岡山県更生保護協会に勤務。
1998年から保護司を20年務め、その後は岡山県保護司OB会の初代代表幹事を務めた。
所有していた畑が三蟠鉄道の路線跡になっていたことで、詳細な実態を探ろうと2012年に三蟠鉄道研究会を発足。
三蟠鉄道研究会会長。

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