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>>どんなこともケロッと2

執筆者紹介=やました ゆうこ

岡山県笠岡市真鍋島生まれ。
美しい海のさざ波を子守唄に、よく眠り、よく食べて元気に育つ。
県立笠岡高校卒業。大学は中退。
「お日様が東から西へ沈むのを眺めとったらええんじゃ♪」と 父親に勧められ公務員になり4年半勤める。
その後、カラオケ喫茶店長にスカウトされ、暇をみつけてはカラオケ三昧の日々を送る。
さらに、地元企業に就職。
ここで担当していた社内報がきっかけとなり、「書くこと」に目覚める。
2004年7月ポジティブエッセー「どんなこともケロッと」を出版。

▼第5話 三度ある
▼第4話 初めてのドライブ
▼第3話 親不孝なムスメです
▼第2話 飾りじゃないのよ、ピアスは
▼第1話 ふくおとこ

▼第5話 三度ある

その日、私と妹は真鍋島の実家に帰るべく、早朝から高速道路を笠岡に向けてビュンビュン飛ばしていた。
途中で右前方に事故車を発見。
その車は追越車線で頭を進行方向とは真逆に向いて鎮座していた。
スピードを緩めて見れば車は横転しており車体の右側ボディが道路にピタリとくっついている。
傍に若い男の子がふたり、歩きながら携帯電話で何処かに連絡を取っていた。
きっと粋がってスピード超過で走り、独り相撲をとってしまったのだろう。

高速道路を降りて一般道を走り出したら、今度は左前方に横転しているバイクを発見。
おじいさんがヨロヨロとバイクを起こしシートに座るとトボトボと走り出した。
「なにかい?  今日は横転デーかい?」雨でもない風でもない晴天の朝である。
たった30分の間に2回も横転を目撃したので少し寒気がしてきた。
でもここから先は大丈夫。
船に乗って向かうのは信号なんてひとつもありゃしない瀬戸内海の小さな島。
危険が起こるはずもないのである。

島に着くと港の周辺はいつになく賑やかだった。
作業服の一団が海を埋め立てて道路を広げ、道路から海までを石段でつなぐという大工事の真っ最中。
私達は工事を横目にウチに帰ろうと歩き始めた。
とその時、ガッシャ〜〜〜ン!!!!!という轟音とともに地面が揺れ目の前でショベルカーが横倒しになったのだ。
辺り一面に白い煙が立ち昇って、まるで雲の中にいるようだ。
みかげ石を持ち上げて順々に石段を積み上げて行く作業の途中でバランスを失ったショベルカー。
一回転して石段から転がり落ちるところを、なんとか土俵際で踏ん張り海水に浸る寸前で停まっている。

私と妹は口をあんぐり開けて顔を見合わせた。

連載中の「どんなこともケロッと2」が『あしたもケロッと』というタイトルで本になります。
>>11月中旬発刊予定

▼第4話 初めてのドライブ

妹のひなこは9ヶ月もかかって免許をとった、迷運転手。
勢いで車を買ったまではよかったけれど、1週間経っても2週間経っても全く運転する気配がない。
腕に自信がないからとはいえもったいない話だ。
おせっかいな姉が
「車貸してよ。その辺をパトロールしてきてあげる」と頼んでみたところ、
「それだけは、絶対にいや!」と断られた。
確かに昔は用水路に落ちたり、田んぼに落ちたりと数々の伝説を作ったけれど、今ではすっかり名ドライバーの姉上様を信用していないようである。

暫く様子をみていたが乗る気配もないので、今度は
「ふたりでドライブに行こうよ。蒜山なんかどう?」と誘ってみた。
私の計画は初心者にはきつい半日コース。恩原高原を経由して岡山市内まで帰ってくるというものだったのでてっきり断られると思っていたら、
「行きたいー! 蒜山でおいしい物食べたいー! ジャージーヨーグルトにジャージーソフトクリーム。ジャージーチーズケーキもね♪」と快諾。
ひなこがそこまでジャージー好きだったとは…。妹思いの姉上様としたことが全然知らなかった。

こうなったら是非ともこのドライブを成功させ、ジャージーシリーズを思う存分堪能してもらおう!
ついでに巧みな運転技術も身につけてもらえば万々歳である。

さて、ドライブ当日。
新車で初めての道、しかも高速道路を走るのは負担になるだろうからと往路の運転は私がすることになった。
ここで、ある重大なことに気づく。私はまだ蒜山高原に行ったことがなかったのだ。
当然のことだが目的地は高原。高いところに向かって走って行くわけで高所恐怖症の私は出発してすぐに身体が硬直してきた。
おまけに苦手なカーブの連続に頭はクラクラ、額から汗がポタポタ落ちてくる。妹にこの情けない姿を気づかれたら面目丸潰れだ。
私はとにかく黙り込みひたすら前だけを見て運転した。
2時間後、なんとか目的地に辿り着いた。

周りの景色に見とれていて何も気づかなかった様子の妹。さらに念願のジャージーシリーズを次々とたいらげ今や上機嫌である。
私も食べたかったけれど、多量の冷や汗を掻いたのでこのうえ冷たいものを食べたらきっと身体が凍りつくと思い、我慢した。

帰り道、今度はひなこが運転する番だ。
「一般道だし車通りも少ないからゆっくり走ろうね。ネエちゃんが横にいるから何があっても大丈夫だよ」と若葉マークに優しく声をかけて、助手席に乗り込んだ私。
「うん」と明るく返事をして運転席に腰を下ろす、ひなこ。
さあ、いざ出発!と思いきや、ひなこは車のあちこちを触り始めた。
どうやらハンドルの位置が遠かったらしく、ぐいっと力任せに座席を一番前まで押し出した。
あとで気づくのだが、この時むやみに触りまくったため、誤って給油口を開けてしまったひなこ。次の給油までそのまま走る破目になる。

少々、前のめりである運転手が気になるところではあるが、ポジションも決まったことだし、今度こそ出発か!と思ったのも束の間。今度は車のポケットから一冊の本を取り出したひなこ。ドライバー用の説明書を読みフムフムと大きく頷いている。
今更ここで「はじめての運転」という本を読んでも手遅れではないだろうか?
数分後、「よし!」と気合を入れ、自信に溢れた様子でエンジンをかけた若葉マーク。
案の定、走り出してからというもの、ガタンガタンという変な音がして、アクセルとブレーキを交互に踏み込んでいるような不安定な乗り心地だった。
ひなこは顔をハンドルよりも前に突き出し、どんどん前のめりになっていく。
助手席の私はシートにぴったり張り付いて手すりを固く握りしめた。

途中でツーンと鼻をつく異臭を感じた私は
「ちょっと待って。この車、何か変な臭いがするよ」と叫んだ。
ひなこは窓を開けて、
「ああ、きっとあれだよ。何か燃やしてるみたい」と向こうの山を指差した。
確かに白い煙がモクモクと上がっている。ブレーキが焼きついたみたいなゴム臭い匂いだったので、きっといけないものを山で燃やしてるんだなと思った。
気を取り直してまた山道をドスンドスンと走ること1時間。相変わらず不安定な走りだけれど、きっとこの車はこんな乗り心地なのだろう。

山道を抜けて最初の信号に引っかかった。
車が停止したそのとき、ひなこは「ハッ」と小さな声を漏らした。
「ネエちゃん、ごめん。」
「どうしたの? 疲れたのなら運転変わろうか?」と心配顔の私に向かって、
「サイドブレーキ下ろさずに、ずっと運転してたみたい…」と半べそで告白する。
そういえば気になっていた目の前の、びっくりマーク(!)。
今日は何で赤く点灯しているのかな、と不思議に思っていたのだが、これがまさしく「サイドブレーキがかかっています」というお知らせだったのだ。
信号が青になりサイドブレーキを下ろした車は、ほんの少しだけスムーズに走り出した。

▼第3話 親不孝なムスメです

「奥にあるオヤシラズ。虫歯ではないですが、抜きますか?」。
半年に一度、歯医者へ検診に行くと毎回同じことを聞かれる。
「いえ、抜かなくていいです」と答えてきたのだが、
なぜいつも同じことを聞かれるのだろう。
ふと「何かあるんですか?」と聞き返してみた。
歯医者さんは、
「歳をとるとどんどん歯が硬くなるんです。抜きにくい場所にオヤシラズが生えてるので、いざ虫歯が出来たときには、困ると思うんですよね…」と説明してくれた。
そういうことなら、1日でも若いウチに抜いておかなければ…。
私は慌てて、「今すぐ抜いてくださいっ」と、返答を変えた。

軽くその場で抜いてくれるのかと思っていたら、
「気持ちを集中してやりたいので、他の患者さんがいない時間帯に予約を入れて今日はお帰りください」と指示された。
親知らずを抜くって、そんなに大変なことなのかなぁ…心配になる。

それからというもの友達に、
「ねえ、歳をとると歯が硬くなるって知ってた〜?」とふれ回る私。
「え、もろくなるんじゃないのぉ?」と逆に聞かれ、
「そうだよねぇ。じゃあ、硬くてもろいのかなぁ」などとちんぷんかんぷんな話になったりもしたが、私の周囲ではオヤシラズを抜いたことがある人がほとんどだった。

ある人は3日間熱が出て腫れ上がり、ある人は歯が痛くて1カ月も思うように食べられなかったそうだ。
妊娠すると治療が限られるという理由で、結婚を機にオヤシラズを抜いたという人が多くて驚いた。
私はこの限られた狭い範囲の情報収集で、「オヤシラズを抜くのは妊娠前。顔が腫れるから仕事は3日間休んだ方がよい」という統計結果 を得た。

さて、3連休をとって臨んだ抜歯の当日。歯医者さんに、
「今日は頑張ってくださいね。時間はかかると覚悟してください」と声を掛けられ、不安になる。
麻酔のおかげで痛みはないはずなのにガリゴリする音と歯医者さんの、「ふぅ〜〜っ!」という苦しそうな溜め息が、どんどん私を圧迫し痛みを感じるから不思議だ。
そのうち、「どうして元気な歯を無理に抜くんだろう」と、後悔の気持ちでいっぱいになってきた。
ダメだ。前向きなことを考えなきゃ。

こんなに苦しい思いをして、オヤシラズを抜くんだから何か楽しいことをしなければ…。
そうだ、私もこの際、妊娠しよう! 
強引に今回の抜歯は、可愛いベイビーを生むためだと妄想し、つらさを喜びに変えて、耐えよう。

抜歯後、ふらふらになって家に帰り、すぐに寝込んだ。
おおげさに氷で冷やしたりして、痛み止めの薬も飲んだ。
日ごろから元気で風邪さえもひかないので、薬はもう10年くらい飲んでない。
オヤシラズごときで、気持ちが盛り上がるのも無理はないな。

結局、腫れることもなく経過は順調。今は妊娠に向けて、準備に余念がない。
基礎体温も毎朝つけているし、カフェイン飲料も量を減らした。
ちょっとばかり早いけれど、妊娠線の予防マッサージも始めた。
まだ独身だから、出産までに籍も入れといた方がいいしね。

で、誰と籍をいれるかって?
あはは。まだそこだけ準備不足なんですよね。

▼第2話 飾りじゃないのよ、ピアスは

たまに会う父にはいつも驚かされる。

72歳の春、何を思ったかヒトエだった左まぶたをフタエにした父。
そういえば左目は、たまにしかフタエじゃなかったかも。本人は70年間、気にしていたらしい。
ある日、テレビコマーシャルを見て、早速その病院へ行ってみたら、たった5分でフタエにしてくれたとのこと。
「フタエにしたら目がパッチリ開いて、視力もよくなった」と至極満足そうだった。
果たして本当だろうか。数ヶ月後、元のヒトエに戻っていたのはご愛敬。ともかく、その行動力にはびっくり。

その夏、今度は耳たぶに穴を開けてしまった父。
両耳に金色のファーストピアスがはめ込まれ、キラッキラに光っているのを見た私は、目を疑った。
「なんでまた今更ピアスなの?」その問いに、父は大義名分を用意していた。つまりこうだ。
今でも現役で仕事ひとすじの彼には電話がよくかかる。その度に、補聴器(なにしろ72歳は耳が遠い)を外して会話をするのだが、その回数が多いので補聴器がよく行方不明になってしまう。
最近の補聴器はデジタルで高級品。無くしたら困るため、耳に輪っか(ピアスのこと)をつけて、そこへ補聴器をぶら下げておけば安心だというのだ。得意げに語る父。
「でも、それなら片方の耳だけでよかったんじゃないの?」とつっこまれ、
「ひとつ開けても、両方でも料金が一緒だったんよ」と照れ笑い。
本当はただピアスをしたかっただけ、なのでは…。

そして冬。寒いのにズリ落ちたズボンを引きずって歩いていた父に私が注意すると、
「知らんの? 若者はこういう履き方するんよ」と逆に笑われた。
その時ちょうど、本物の若者、父にとっては可愛い孫娘から電話がかかってきた。
「大学が冬休みになったら、おじいちゃんちに行くね」なんと良くできた孫でしょう。
神戸から、おじいちゃんの仕事を手伝いにひとりでやってくると言うのだ。
しかし父は急に渋い顔になり、
「あかんあかん。ウチには帰ってくるな!」と即答。
「何でかって? …そりゃあ、髪の毛が赤いからよ。日本人の髪は黒いんじゃから、帰って来たいなら髪を黒く直しなさい」と力説している。

驚いた。ピアスはOKなのに茶髪はダメなんてそりゃあないでしょ。

▼第1話 ふくおとこ 

2月3日節分。またあの男がやってくれた。

節分といえば豆まきである。
父は毎年、最上稲荷(岡山市高松稲荷)の豆まき式に参加するのを楽しみにしている。
この豆まきは、豆をまく「福男・福女」が約7百人、それを拾いにくる人達が約3万人と、かなり盛大な行事だ。

その日、父は朝から浮き足立っていた。
思えば、時折、私の方を向いて含み笑いをする目は確かに何かをたくらんでいた。

豆まきは我が家の一大イベント。私と妹は、カメラマンとして両親に同行する。
朝9時、最上稲荷に到着。
控え室で他の福男・福女と共に待っていると、係員が手際よく衣装に着替えさせてくれる。
今回両親が選んだのは「百大黒」の衣装。
独特な形をした白いズボンに黒い上着、さらに金色の腰巻をして、頭には赤いかぶり物。
最後に紫の福袋を肩に背負ったら出来上がりである。
しかも100人。なかなか壮観だ。

全員が同じ服を着ていると誰が誰やら区別がつかなくなる。
カメラマンにとっては厄介なことだけれど、父はこの奇妙な衣装の上に、ヒョウ柄のネッカチーフと太い金縁のサングラス、そして金ぴかのピアスという独自の妙なファッションを繰り広げているため、ひとりだけ目立っていた。

豆まき用に作られた壇上にずらりと百大黒が並んで、いよいよ豆まきが始まる。
我ら取材班はシャッターチャンスを逃さぬようにとしっかり足場を固めた。
なにしろ周囲には豆拾いをすべく気合が入った人が約3万人!
  ある人は虫取りの網を振りかざし、ある人は割烹着の前掛けを広げている。
ちょっとでも油断したら足は踏まれる、突き飛ばされる、
しかも、上からは矢のように豆の袋がビュンビュン飛んでくるのだからカメラマンは命がけの仕事なのだ。

「福は〜うち、福は〜うち」

さあ、始まった。
私は両親の姿をレンズで追うが、逆光のせいでなかなかいい表情が押えられない。
焦ってバシャバシャとシャッターを切っているうち、あっけなく百大黒組の時間は終了してしまった。

とその時、
急に「うおぉ〜〜〜!!」と予期せぬ大歓声が起こった。
慌てて目をやると、そこは、まさに騒然とした様子。そして、私は目を疑った。
どよめく人ごみに向かって、父が投げている。
下にいる人たちは奇声をあげて手を振りかざしている。
投げているのは豆じゃない。千円札、2千円札、5千円札タチ。
引き揚げ体勢だったコスプレ仲間も、唖然として足を止め、この騒ぎを見守っている。
そして、父はついに1万円札を振りかざした。
「ぎゃお〜〜〜!!」なんだか、豆まきより断然盛り上がってきた場内。

満面の笑みでパフォーマンスする父を私と妹はただあきれて見ていたが、その傍らで母だけは父の勇姿に感激し嬉しそうに拍手を送っていた。
てっきり、怒ると思ったのに・・・。やっぱり夫婦って似たもの同士なのね。